インスリン治療
インスリン治療

インスリン治療とは、体内で不足したり、働きが弱くなったりした「インスリン」というホルモンを、体の外から注射で補う治療法です。
インスリンは、体内で唯一血糖値を下げることができるホルモンであり、この働きが弱まると高血糖が続いてしまいます。
インスリン治療は、その足りなくなった分を補う、非常に理にかなった「補充療法」です。
1型糖尿病の場合、ご自身の膵臓のインスリンを分泌する細胞(膵β細胞)が破壊されてしまうため、生命維持のためにも診断直後からインスリン注射が不可欠です。
一方、2型糖尿病の場合は、経口薬(飲み薬)だけでは血糖コントロールが十分にできない時や、高血糖が長く続き膵臓が疲弊している状態(糖毒性)を改善したい時にインスリン治療の開始を検討します。
インスリン製剤には、その効果の現れ方と持続時間によって、いくつかの種類があります。
患者様の血糖変動パターン、生活習慣、そして治療目標に合わせて、最適なインスリンを単独で、あるいは組み合わせて使用します。
食事によって急峻に上昇する血糖値を抑えるために、食事の直前(5〜15分前)や食後に注射します。注射後ごく短時間で効果が始まり、約3〜5時間持続します。食事量や炭水化物の摂取量に応じて、柔軟に用量を調整できるのが特徴で、食直後でも注射できる製剤もあります。
超速効型よりもややゆっくりと効果が始まり、食後の血糖上昇に対応します。通常は食事の30分前に注射し、効果は約5〜8時間持続します。
基礎インスリンとも呼ばれ、一日を通して血糖値を安定させる目的で、通常は1日1回、決まった時間に注射します。
体内で非常にゆっくりと吸収され、約24時間、あるいはそれ以上効果が持続します。食事とは関係なく分泌されているインスリン(基礎分泌)を補う役割を担い、空腹時や食間の血糖値を安定させ、夜間の低血糖リスクを軽減するよう設計されています。
持効型インスリンが登場する以前の基礎インスリンの主役でした。注射後1〜3時間で効果が始まり、約18〜24時間持続します。現在では持効型インスリンの使用が主流ですが、一部のケースで用いられることがあります。
超速効型(または速効型)と中間型インスリンがあらかじめ一定の比率で混合されている製剤です。1回の注射で食後の血糖上昇と基礎分泌の両方をある程度カバーできるため、注射回数を減らしたい場合に選択肢となります。
これらの多様なインスリン製剤を適切に選択し、使用することで、より個々の患者様に合った、きめ細やかな血糖コントロールが可能になります。
どの種類のインスリンが最適かは、糖尿病専門医が患者様の状態を詳しく診察した上で判断します。
インスリン治療は、単に血糖値を下げるだけではありません。患者様の体と生活に、多くの良い影響をもたらします。
インスリンは、血糖値を下げるホルモンです。飲み薬だけでは難しかった目標値の達成も、インスリン治療によって可能になることが多くあります。
長期間の高血糖は、インスリンを分泌する膵臓に大きな負担をかけ、疲弊させてしまいます。
インスリン治療を行うことで、膵臓を外からサポートし、休ませることができます。これにより、膵臓自身のインスリン分泌能力が回復するケースも少なくありません。
良好な血糖コントロールを維持することは、糖尿病の3大合併症(網膜症、腎症、神経障害)や、心筋梗塞、脳卒中といった命に関わる大血管合併症の発症・進展を防ぐ上で、極めて重要です。
インスリン治療は、これらのリスクを低減するための強力な手段となります。
インスリン治療に関して、患者さんからよくいただく疑問にお答えします。
インスリン治療は、決してあなたの生活を制限するものではありません。むしろ血糖が安定することで、これまで以上に安心して活動できるようになります。旅行時のインスリンの持ち運び方や、外食時の対応、仕事と治療の両立など、具体的な方法は専門スタッフが丁寧にアドバイスし、あなたのライフスタイルに合わせた治療計画を一緒に考えていきます。
もしインスリンの注射を忘れてしまった場合、自己判断で2回分を一度に注射するのは大変危険です。お使いのインスリンの種類や、注射を忘れた時間帯によって対応が異なりますので、あらかじめ主治医と「忘れた時のルール」を決めておくことが大切です。困った時は、すぐにクリニックにご連絡ください。
現在の自己注射に用いる針は、採血の針とは全く異なり、髪の毛ほどの極細に設計されています。多くの方が「蚊に刺された程度」あるいは「何も感じなかった」とおっしゃるほど、痛みへの配慮は最大限になされています。また、操作が簡単なペン型注入器が主流であり、毎日のことだからこそ、心理的なハードルが大きく下がるよう工夫されています。
インスリン治療を始めることは、決して特別なことでも、糖尿病の終わりを意味することでもありません。
大泉学園駅前内科・糖尿病クリニックでは、糖尿病専門医と経験豊富なスタッフが、インスリン治療という新しい一歩を専門的な医療でサポートいたします。
治療に関する不安や疑問があれば、どんな些細なことでも遠慮なくご相談ください。